院長日記

脂質代謝異常の診断(2)

2016/04/15

脂質代謝異常の原因

脂質代謝異常の診断には、血清脂質値に影響を及ぼす薬剤が投与されていない状態で、10時間以上の空腹絶食後に、静脈採血することが必要です。 とはいっても、水の飲用はOKです。また、高血圧などの治療に必要な薬剤は水で飲んでもらって結構です。食後2時間を経過すると、小腸で吸収された脂質を材料にしたリポ蛋白が小腸や肝臓で作られて、末梢静脈血に出て来ます。正常基準値はその影響を受けない時点で採血した結果を基に決められたものです。

脂質代謝異常症の中には特有の症状を認めないものがほとんどですが、中には動脈硬化以外の症状を認めるものもあります。空腹時中性脂肪2000mg/dl以上の高中性脂肪血症においては、20-30%の症例で急性膵炎を起こす場合があります。アルコール多飲時にも高中性脂肪血症はよく認められますが、同様です。アルコールが原因の場合には、やめれば1週間以内に中性脂肪は正常化することもあります。中性脂肪を多く含む大型のリポ蛋白が血液中に増加するには、成分の中性脂肪がグリセリドと脂肪酸を材料にして小腸粘膜細胞や肝細胞で作られ、他の脂質(コレステロールやリン脂質)や蛋白質(アポ蛋白と名付けられている13種類の特異な蛋白)と結合して、リポ蛋白として細胞外に分泌され、血液中に出てきます。しかし、非アルコール性高中性脂肪血症の中には稀ですが、中性脂肪を分解するリポ蛋白リパーゼ(LPL)の機能異常により高中性脂肪血症を起こす症例があります。このLPL蛋白やLPLを補助する蛋白などの異常による中性脂肪の上昇は、小腸で作られるカイロミクロン( 密度0.95未満、中性脂肪が組成中の90%を占める)や肝臓で作られる超低比重リポ蛋白( VLDL,密度 0.95 -1.006、中性脂肪が組成中の55%を占める)の主成分である中性脂肪が血管内で分解されにくいために起こり、治療法は食事療法しかありません。また、高カイロミクロン血症では所見としてほかに四肢や腹部に発疹様の黄色腫を認めることもあります。

中間型リポ蛋白(IDL, 密度1.063 – 1.019))が増加した場合では手掌の特徴的な線状黄色腫や四肢関節伸側の黄色腫を認めます。この原因はIDLの表層に存在するアポ蛋白Eの機能異常によってIDLを肝臓に取り込む機能が低下し、その結果、血中にIDLが増加します。この病気ではアポ蛋白EのE2/2という遺伝子診断さえできれば、フィブラートという薬が良く効きます。

家族性高コレステロール血症でLDLコレステロール(LDL-C)が著明に増加した場合には角膜混濁やアキレス腱肥厚、四肢関節の腱黄色腫を認めることがあります。これらの原因は肝細胞や貪食細胞(マクロファージ)にLDLを取り込む際にLDL(密度 1.063- 1.21, コレステロールが組成中50%を占める)表面のアポ蛋白B-100と結合する細胞膜表面の蛋白(LDL受容体)やLDLを細胞内で分解する際に細胞膜と分解部位のライソゾームの間でLDL受容体と結合する蛋白(PCSK9)などの異常によるもので、家族性に発症します。しかし、現在では、責任遺伝子の診断も可能になり、診断さえできれば、一部の重症例を除いて、簡単に薬物で治療ができます。もちろんこの責任遺伝子の異常は症例のすべてで確認できてはいません。検査機関や臨床症状によって家族性高コレステロール血症と診断した施設によって、遺伝子異常の確定診断率は50 – 80%と幅があります。その原因としては、臨床症状による診断法に問題があるのではないかという意見が多いようで、国際的に診断基準をひとつにする努力が続けられています。日本人の診断基準は未治療時のコレステロール値が180mg/dl以上であり、腱黄色(手背・肘・膝などやアキレス腱前後径が9.0mm以上)あるいは皮膚結節性黄色腫を認めるとともに、2親等以内の家族に同様の症状あるいは若年性冠動脈疾患( 男性では45歳未満、女性では55歳未満または閉経前)の既往を有する場合とされています。これらの基準を有する症例では、できれば、責任遺伝子の異常を確認することを勧められています。親の両方から遺伝子異常を受け継ぐと、症状がひどくなるように考えられますが、責任遺伝子の検討が進められるとともに、軽症例の存在も明らかにされてきています。

遺伝子診断の結果から、家族性高コレステロール血症の頻度が日本人でも従来考えられていた500人に1人より多い200-300人に1人と言われるようになり、50才以下の若年性心筋梗塞症例の10-20%を占めているのではないかと言われるようになりました。また、アポ蛋白B-100の LDL受容体と結合する部位の異常でも同様の症状を呈しますが、日本人にはアポ蛋白B-100の遺伝子異常は見つかっていません。

治療には、1990年から日本で使用可能になったスタチンや、2006年より使用可能になったエゼチミブが広く用いられますが、同時に中性脂肪が上昇している場合にはフィブラートや3価多価不飽和脂肪酸( エイコサペンタエン酸、EPA)を併用します。これらの薬物療法が十分な効果を上げなかった場合には、血漿交換( LDL吸着療法)が1回/ 1-2週間行われます。さらに、今後は、従来の治療法で十分なLDLコレステロール低下が認められない症例や重症例に対してPCSK9の中和抗体を用いた治療法も可能な状態になってきています。

上記3種類のリポ蛋白代謝異常による疾患は合わせても、脂質代謝異常症症例の10%以下を占めるにすぎません。原因不明の脂質代謝異常症がほとんどを占める中で、脂質代謝異常症の一番大きな合併症は動脈硬化性心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞)です。しかし、困ったことに、脂質代謝異常症はいまでも動脈硬化性心血管疾患の発症時における採血ではじめて診断されることが多いのです。動脈硬化性心血管疾患の発症リスクの高い脂質代謝異常症症例では、無症状でも冠動脈や胸腹部大動脈・総腸骨動脈・大腿動脈におおきなこぶ(プラーク)による狭窄や動脈瘤が見つかることがよくあります。また、同様に、外来で簡便にできる頸動脈エコーにて、総頸動脈・内頚動脈にプラークのみでなく、血栓や狭窄・閉塞が認められることもあります。やはり、動脈硬化性心血管疾患の高リスク症例には積極的に精密検査をする必要があります。脂質代謝異常症の中でも高LDLコレステロール血症や高LDLコレステロール血症に高中性脂肪血症や低HDLコレステロール血症を合併した症例では動脈硬化性心血管疾患がより若年で発症する傾向があります。

脂質代謝異常は、リポ蛋白分画の脂質成分( コレステロール、中性脂肪、リン脂質)の変化による高脂血症および低脂血症によって分類するのですが、家族性か非家族性かどうかにより、原因については不明のものも含めて遺伝性の高脂血症および低脂血症が存在します。この詳細は別紙面で述べることにしますが、後天性の原因には喫煙、肥満、食事( 過剰なカロリーや動物性脂肪の摂取)、運動不足などが挙げられ、これらは薬剤を用いることなく、生活習慣の改善のみで正常化できる例も多く認められます。さらに、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症、尿蛋白が大量に出るネフローゼ症候群、成長ホルモン過分泌による末端肥大症などに伴う二次性脂質代謝異常症は原因となる疾患を診断し、治療することにより改善できます。

 

 

 

 

 

 

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