院長日記

脂質代謝異常の診断(1)

2016/04/01

リポ蛋白分画のコレステロール測定法の変遷を乗り越えて
最近では、いろいろな脂質の測定法が開発され、測定法間で大きな差がないかどうかが危惧されています。特定健診が運用される直前から、LDL-Cを簡単に測定できる直接測定法キットが多数の会社で開発されて、一部で用いられています。特定健診では、測定する脂質は3種類までとされ、通常は総コレステロールを測らず、HDL-CとLDL-Cを直接法で測定し、他に中性脂肪を測定することが推奨されています。しかし、本当にこれでいいのでしょうか。

脂質代謝異常の診断は、空腹時採血によるそれぞれの血清脂質、すなわち、密度が低く、サイズが大きい順にVLDL( very low density lipoprotein)、IDL( intermediate density lipoprotein)、LDL( low density lipoprotein)、HDL( high density lipoprotein)と命名された各リポ蛋白分画の総コレステロール、中性脂肪の量によって診断されます。この4種類以外に小腸で作られるカイロミクロン( CM, chylomicron)があります。カイロミクロンはVLDLよりさらに密度が低く、サイズが大きいリポ蛋白で、小腸で作られた後、リンパ管を通って、左上胸部の静脈角から静脈に流れ込んだのちに、粒子内に大量に含まれる中性脂肪が血管内でリパーゼによって分解されることにより小型化したCMレムナントとなり、数分内で肝臓に取り込まれます。食後1-2時間後に血清中に出て来始めますが、食後10時間経過した空腹時にも少量のみ存在しています。

空腹時の血液中には水に溶けない脂質と数種類のタンパク質(アポ蛋白)が結合してできたリポ蛋白が存在します。肝臓や小腸で作られたリポ蛋白は、血液中で成分のコレステロールや中性脂肪がリポ蛋白間を移動して、末梢組織に脂質を届ける一方、末梢組織からは余剰のコレステロールを肝臓に持ち帰ります。肝臓で作られるVLDLも大量の中性脂肪を有するために、CMと同様にリパーゼで中性脂肪が分解され、小型化してVLDLのレムナント(中間型リポ蛋白、IDL)となり、一部は直接、末梢組織に取り込まれます。大部分はさらに小型化してLDLになった後に、末梢組織( 脂肪・筋肉組織や血管壁の単球やマクロファージ)と肝臓に取り込まれます。また、HDLは肝臓や小腸で作られるとともに、HDLに含まれるアポA1という蛋白が働いて末梢組織のコレステロールをHDL粒子内に取り込み、次第にコレステロール含有量を増やして、サイズを大きくします。その課程で一部のコレステロールをLDLに渡しながら、肝臓にコレステロールを運んで、処理します。このリポ蛋白の代謝の違いから、LDLは悪玉、HDLは善玉とそれぞれ命名されています。

1950年代から、これらリポ蛋白に含まれる脂質、なかでもコレステロールを測定することに多くの研究者が関わってきましたが、密度やサイズの異なるリポ蛋白を超遠心法や電気泳動法で分離する方法が用いられていました。1972年に新しくアポBを含むリポ蛋白( VLDL、IDLおよびLDL)を沈殿させて取り除く沈殿法を用いてHDL-Cを直接測定する方法(アポB含有リポ蛋白沈殿法)が開発され、それまで超遠心器を用いて時間をかけて測定していたLDL-C値に変わって、間接的に計算式( フリーデワルドの計算式)で簡単にLDL-C値が求められるようになりました。すわなち、まず、総コレステロール値からアポB含有リポ蛋白沈殿法を用いて測定したHDL-C値を引きます。さらに、空腹時に肝臓で作られた超低比重リポ蛋白(VLDL)のコレステロール値は血清中性脂肪値が400mg/dl以下の場合には、中性脂肪値の1/5に相当することから、中性脂肪値の1/5を引いた値をLDL-C値(実際はIDL-CとLDL-Cを合わせたもの)としたのです。この計算式は1993年にHDL-Cの直接測定法が出現したのちにも用いられてきました。注意点としては、この計算式は簡便な方法ではありますが、中性脂肪が多い検体ではアポBを含むリポ蛋白を完全に沈殿させることができないため、中性脂肪が400mg/dl以上ではこの計算式を用いることができません。健診症例の検体でも1-5%の症例が中性脂肪400mg/dl以上ですので、フリーデワルド計算式ではこれらの症例のLDL-C値は不明となり、限界のある検査法でした。

そこで2003年に開発されたのが、LDL-C直接測定法です。実際に、使用するLDL-C直接測定キットによっては従来のフリーデワルド法で求めたLDL-C値(総コレステロール値から中性脂肪値の1/5とHDL-C値を引いて求めた値)と大きく異なる数値が出て、いままでのデータと比較できない場合も出てきています。LDL-C直接測定法キットとフリーデワルド法で求めたLDL-C値の間で乖離が大きくなる原因としては、やはり中-高等度の高中性脂肪血症があるようです。そもそも食後に中性脂肪が上昇する時でも、直接LDL-Cを測定できるような測定法として開発されたはずですが、一部のキットを除いては、無理があるようです。測定試薬のメーカーはその測定原理を明らかにしておりませんが、LDL-C直接測定法には大きく分けて、LDL-Cのみ測定するものとLDL-Cとともに中間型リポ蛋白(IDL)コレステロールも含めて測定するものがあります。フリーデワルド法ではLDL-CにIDL-Cを含めたコレステロールを示しています。残念ながら、現状では7社以上あるLDL-C直接測定試薬には統一される動きもないため、データの継続性と試薬の精度を考慮して、われわれが選択するしかありません。フリーデワルド法の欠陥を解消すべく開発されたのがLDL-C直接測定法でしたので、LDL-C直接測定法を用いて従来のデータと比較する場合にはIDLとLDLのコレステロールを測定する試薬を用いることが必要です。

また、従来のフリーデワルドの計算式でLDL-C値を求めることを基本にして、中性脂肪が400mg/dl以上の症例では総コレステロールから単純に直接法で測定したHDL-Cを引いて求めたnon HDL-C値を指標にすることが推奨されています。non HDL-Cは、すべての症例で求めることが可能であるからです。また、nonHDL-CはほぼLDL-Cに30mg/dlを加えた程度になるとされています。現状でのnon HDL-Cも含めての正常基準値は、総コレステロール 220mg/dl未満、中性脂肪150mg/dl以下、LDL-C 140mg/dl未満、HDL-C 40mg/dl以上、nonHDL-C 170mg/dl未満ということになります。

標準的なLDL-C測定法が認められるようになれば、総コレステロール、中性脂肪、LDL-C、HDL-Cの4種類の測定を行い、総コレステロールからLDL-CとHDL-Cを引いた値をVLDL-Cとして求めることができます。しかし、VLDL-Cの臨床的な意義については明らかでないために、現状では総コレステロール、中性脂肪、HDL-Cの3種類の血清脂質の測定で十分です。

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