院長日記

高脂血症の治療(1)

2015/03/18

血清脂質にはコレステロールの他に中性脂肪、リン脂質と遊離脂肪酸が含まれます。

これらのうち、一般に測定され、病気の原因として問題になるのは、コレステロールと中性脂肪ですが、それらは血液の中では多くのアポ蛋白と一緒になってリポ蛋白粒子を形成しています。

悪玉と言われるLDL( 低比重リポ蛋白)には成分としてコレステロールがリポ蛋白の中でも一番多くて、50%( 重量として)含まれ、アポBが1個だけくっついています。だから、アポBはLDL粒子数を表します。

また、善玉と言われるHDL( 高比重リポ蛋白)にはアポA1が2-4個くっついており、末梢の組織からコレステロールを引き抜き、肝臓へ運びます。HDL粒子数はアポA1では表せません。HDLは炎症も抑制します。

しかし、最近では、急性心筋梗塞時にはHDLが白血球から出る炎症性物質と結合し、コレステロールを引き抜く能力が低下していることが明らかになってきました。病気によってはHDL-コレステール値が正常でもHDL本来の機能が不良のことがあるのです。

リポ蛋白に含まれるコレステロールやリポ蛋白の粒子数からリポ蛋白としての機能を類推することには、一定の根拠がありますが、急性期の動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)の経過から、その限界説が出されています。

では、臨床的に一般の診察では、何を指標に動脈硬化性疾患の診断や治療効果を診ると良いのでしょうか。

極端に高い正常値を掲げる健診の団体や、LDL-コレステロールレベルに治療目標値を設けず、高リスク群中心にスタチンを出しておけばいいという米国の予防診療指針も出されて、2014年以降、現場は混沌としています。専門学会は信用できるデータをわかりやすく現場に提示する義務があると思います。

エビデンスに基づいた診療ガイドラインが複数あるわけではありません。

日本固有のエビデンスにこだわるのであれば、限界はあるものの、福岡県の久山町研究のように50年以上蓄積されたデータがあります。死亡診断書からすべての原因を明らかにするのは無理がありますが、久山町研究ではなくなられた方の90%が死亡原因について解剖して明らかにされています。

この研究から動脈硬化性疾患の原因として高血圧、糖尿病、LDL-コレステロール、喫煙、男性などの因子が再確認されるとともに、逆に高HDL-コレステロール血症や女性、非喫煙者では動脈硬化性疾患の発症が低いことも証明されています。

さらに、同じ疾患でも薬剤を用いてコントロールできた場合とできなかった場合の間には、どれぐらい動脈硬化性疾患の発症率に違いがあるのか。また、今の医療保険制度下で治療せずに発症した場合と比べて、治療して発症しない場合には経済的にどれぐらい利益があるのかも考える必要があります。

現在の医療環境下で血清脂質( 総コレステロール、中性脂肪、HDL-コレステロール)とアポA1、アポB、さらに、症例によっては中間型のリポ蛋白分画(IDL)のコレステロール、リポ蛋白(a)程度などを測定して動脈硬化性疾患の高リスク群を診断し、生活習慣の改善や薬物投与により得られる動脈硬化性疾患の発症予防効果が、はたしてどれぐらいあるのか、もう一度明確にする必要があるようです。

最近では、治療群と未治療群をあらかじめ分けて数年追跡する方法は欧米でも取りづらくなっており、治療方法として弱い治療群と強力な治療群の間で動脈硬化性疾患の発症に差を認めるかどうかを診る方法がとられるようになりました。弱いといっても従来の標準的な効果があるとされる治療法との間に統計的に有意な差がないと新規の有効な治療としては認められないため、最初から単独群の間での有意差を診ることはせず、従来の標準的な方法と新規の薬剤を加えた併用群との間の差を診るようになっています。

このような試験方法をとる結果、単独治療より薬剤の機序が異なる薬を併用することが勧められる傾向があります。動脈硬化性疾患の高リスク症例では他薬剤との併用が多いために、それぞれの薬の機序をよく理解して用いる必要性が増しています。

その中で、LDL-コレステロールが高い場合には肝臓でのコレステロール合成を抑制するスタチン( 弱いものから強いものまで、それぞれ特徴のある6種類があります)と、上部小腸でコレステロールの吸収を抑制するエゼチミブが用いられます。中性脂肪が高い場合には肝臓で中性脂肪を大量に含むリポ蛋白の合成を抑制するとともに、血液中で中性脂肪の分解を促進し、HDL-コレステロールを増やすフィブラート( 代謝や尿酸値に与える影響の異なる2種類があります)や中性脂肪の合成を抑制し、血液凝固を抑制するEPAがよく用いられます。

スタチンとフィブラートの併用は我が国では原則として併用禁忌と添付文書に記載されています。しかし、実際にはLDL-コレステロールと中性脂肪が両方高い場合に用いられています。もちろん、腎機能が悪い症例や高齢者では十分注意して用いる必要があります。

当クリニックでは上述のような点を意識しながら、一人一人の患者さんに合った治療法で診ていきます。

ページトップ